日を追う事に激甚を極める現代魔界。“不死”の概念は最早無く、等級問わず誰にでも死が訪れるようになりました。
この魔界で“我々悪魔はどうあるべきか”を調査すべく、今回取材班はデビルが生まれてから死ぬまでの間の密着取材を敢行。知られざる死の側面に迫ります。

取材初日、「公園でもうすぐ生まれる!」という多数の目撃情報を元にヘル区某所の公園へ訪れた取材班。
少し待つと、何とも若々しいデビルが砂場に高く盛られた魔土を掻き分け、我々の前に飛び出てきました。

「オオォ ウオォ いつもいつも ありがとうございます」
産声と言わんばかりに魔界への感謝を歌うその姿は明らかにデビルであり、あまりの迫力に歴戦の取材班たちにも一気に緊張が走りました。
その終わらない感謝に圧倒されつつ、まだ名も無きデビルとの密着取材がスタートします。

bevil

号泣──。
名も無きデビルは取材班の前で突如泣き出しました。
「生まれたのがそんなにショックだったか?」「命が必ず死ぬ定めに絶望したか?」「頭を打ったのかもしれない」などと観衆の呼びかけを全て無視して、名も無きデビルは一言放ちました。「名前が、ない!」と。

どよめきと同時に、即座に999999枚もの名前案がFAXされてきており、世間における名も無きデビルへの期待感は十分です。
愚ビーモン、ビー憤、デモニアなどの魅力的な候補を押し退け採用されたのは666悪魔666でした。
666悪魔666は市役所を襲撃し窓口で早速名乗りを上げると、邪北西に飛び去りました。

一方、名前案に666悪魔666を投稿した一般悪魔にインタビューをすると、「全部足すと999になる。すごいだろ?」と宣っており、不愉快だったため即千切りにしました。

devil

なんともやんちゃな666悪魔666が次に訪れたのは魔道具屋。店に乱入するなり大きく金切り声をあげて昏倒し、その後目に入った最高級エビデビベビーカーを脛骨50000個で購入。
エビデビベビーカーは即座に店内にて納車され、666悪魔666がコックピットに着座すると彼の生まれ持った圧倒的な熱量を受けたエンジンに火が入る。

山羊ですら生後数時間で歩き出す。ならばこの悪魔の申し子が走らない道理は無く、引き絞って解き放たれた矢のように、音、光、そして我々取材班を含めた全てを置き去りにしてエビデビベビーカーは瞬く間に消え去ります。
密着開始早々に取材対象を見失ってしまうという大失態、取材班の全員が八臓六腑を大地に捧げることで赦しを乞いました。

そんな哀願の甲斐もあってか轢き潰された死体の道を辿っておよそ86666時間、666悪魔666を乗せた車が墓場に停止しているのを無事発見。
傷だらけになった車体から降り立った666悪魔666もまた無数の傷を負っており、暴走の過酷さを物語ります。

「死がね、少しだけ近くなったんだよ」
つたない言葉でそう語る彼の横顔は少し大人びて見えました。
『子供は少しでも目を離せば死に突き進む』とはよく言ったもの。魔界の魔親たちが口々に叫ぶ金言に間違いは無く、我々もまた子を育む親のように、あるいは憎き親の仇のように、彼の六六六挙手六六六投足から目を離さないことを改めて大地に誓います。

魔砂漠

痛かった。だから、痛がらせたい
大暴走の後から、666悪魔666は口癖のように(編注:4秒に1回)この言葉を発するようになりました。

「全てが終わった今になってから考えれば、あの日彼を見失ったということが
 我々の最大の失敗にして最も偉大な業績でもあったのだと思います」
本記事999代目のカメラマンは目を伏せた後、文字通り"破顔"しました。

大暴走の翌日から、口癖とは裏腹に、666悪魔666は他者へ苦痛を与える行為を何一つ行わないようになりました。
一日の大部分を瞑想に費やし、動くのはひと掬いの魔土を懐から取り出し食む、その一瞬のみでした。

99999999999999999999999年後。クレーターの中心に聳え立つ魔土の塔の頂点に、666悪魔666は変わらず座していました。
カメラマンはついにしびれを切らして問いました。
なぜ悪魔らしく他者を傷つけないのか。なぜ痛がらせたいと言いながら何物も傷つけないのか。
666悪魔666は眼を開いて(編注:瞼ではなく、紛れもなく「眼を開いて」いた)言いました。
「悪魔は鈍化している。苦痛が日常となっている。だから、痛がらせたい。
 それは麻痺である。苦痛と慣れは対義語であるべきだ。だから、痛がらせたい。
 なぜなら、苦痛とは最も澄み切った水であり、最も新鮮な肉である。
 最も堅固な鎧であり、最も鋭い刃である。
 最も朗らかな生命であり、取り返しのつかない終わりへと唯一繋がる道である。
 だから、痛がらせたい」

それはまさしく、『1日の間に発した苦痛の量を競う大会』──すなわち我々の良く知る『発痛自由形』の理念と全く同じものでした。

死桜の下に弱者の積もる夜が更け、4月444日が桜吹雪に煙って消えたその直後から。
6月66日──魔界で最も虐痛い一日が始まりました。

死の画像

「ギャアアアアアアアアアアアア!!」
「助けてくれ!!!」
「気が、狂いそうだ!!」

デモンブル最悪競技場に設置された999999種の拷問装置が一斉に稼働、参加者たちは各々の方法で痛みを生み出していきます。
自らの骨を666回折り、魔太陽に焼かれる者、全身を細切れにした後、自らの肉体をデモォン海に投げ込みサビキ釣りをする者、全身に針を刺した後、デモンサボテンとデス相撲をとる者、歯を全て引き抜き、歯茎に魔廃猿を住まわせる者。

そんな中、会場の中央では666悪魔666が複数の悪魔を縛り付け、その前で静かに生け花をしていました。
666悪魔666は手を止めることなく、生け花の茎を一本折りながら、静かにこう語りました。

「非日常というものは、繰り返せばただの刺激になる。
 刺激は慣れ、慣れは麻痺を生み、麻痺は苦痛を殺す。
 自分で選び、予測し、制御できる異常など、それはもう日常だ」

縛られた悪魔たちに視線を向け、続けて言いました。

「だが、自分の意思が一切介在しない非日常。
 理解できず、理由も与えられず、終わりも見えず、
 それでも“意味だけを考えさせられる状態”。
 それこそが、慣れようのない苦痛だ。
 痛みは肉体に刻むものじゃない。
 説明を欲し始めた瞬間、苦痛は完成する。
 だから私は、行き過ぎた非日常を“置く”。
 それが、今の私の答えだ」

事実、縛り付けられている悪魔たちの悲鳴は変質していました。
「助けて!!」は既に消え、「なぜ(助けが)来ない?」「この状況に意味はあるのか?」という、思考を伴った絶叫へと深化していたのです。

審査員はこの状況を高く評価していましたが、観戦悪魔の「ごちゃごちゃうるせえ!」「こっちには何も伝わらない!」「他者を痛めつけるだけなら誰にでもできる。自らを痛めつける方がよりエビルだ!」という声により態度が豹変。
666悪魔666を大会荒らしと認定し、666666回殴打、444444回骨を折り、999999999999回エビルダンプカーで轢いた後、肉片を魔児童に粘土として配布しました。

えびるえびる岩

死ぬまで密着をするという使命を課せられた我々取材陣は、666悪魔666が死んだことを確認するために肉片が配布された魔学校へと赴きました。
肉片は既に魔児童の元に行き渡っており、教室では魔児童たちが机に向かい、それぞれに割り当てられた「粘土」を黙々と捏ねていました。

黒板には「苦痛の形を自由に作れ できない場合は『腎臓』」とだけ書かれていました。
教室内は粘土を捏ねる音だけが静かに響き、たまに「これで合っているのか?」という小さな呟きが聞こえます。
取材班が「この粘土は誰の肉片か分かっているのか」と問いかけると、一体の魔児童が答えました。

「知らない」

別の魔児童はこう言います。

「この粘土、さっきまで何かを言っていた」
「でも今は何も言わない」
「だから、どうしていいか分からない」

その瞬間、我々は理解しました。666悪魔666は、最後の最後においても、他者に“考えさせる苦痛”だけを残したのです。

なお、粘土状となった肉片は乾燥すると急激に硬化し、魔児童の力では二度と形を変えられなくなることが判明。魔教員に「安物の粘土は、迷惑だ!」と近くの公園に捨てられました。
おじいさん