魔野球が生まれて4444年余――若年悪魔の間では魔野球衰退論も叫ばれて久しいが、まだまだ魔界一の人気スポーツであることに変わりはない。
しかし現在の魔野球のあり方に異議を唱える魔族が一柱いる。それも一山いくらの低級魔族ではない。現役時代には通算666本の蛇食（へびはみ）に99999イニング連続換骨（かんこつ）を誇り、現在も打撃コーチとしてチームに貢献するミスターデビルデモンズ・デビルショート氏(666)だ。
「お忙しいところわざわざお越しいただいて、すみませんね」
グラウンドで血汗を流す球魔たちを目を細めて見つめながら、デビルショート氏は我々のインタビューに答えてくれた。

彼が考える魔野球の問題点は「絶対的な後攻有利」だ。
今シーズンのプロ魔野球界では魔・リーグと死・リーグで通算4444試合が行われ、そのうち4443試合で後攻側のチームが勝利した。先攻が唯一勝利した試合は、自然発生した爆発に巻き込まれて後攻のエビル毒ズが全滅した一昨日のナイターゲームのみとなっている。
そして後攻側が勝利する理由は至極単純だ。投手は魔力でボールを強化し、キャッチャーではなくバッターボックスめがけて投球する。打者側は狭いバッターボックス内で満足に力を練る時間もないまま、魔球が直撃して死ぬか、無様に逃亡して恥をさらしチーム内で私刑を食らって死ぬかの二択を迫られるのだ。これを先攻チームが8人になるまで続ければ後攻チームの勝利というわけだ。

「こんなの許しちゃいけないですよ」デビルショート氏の語気は、インタビュー内容のメモ代わりに使用している下級悪魔が4名死亡した頃から徐々に怒りの色を帯びてきた。
「魔野球ってのはスポーツであって、すなわちルール内での点の取り合いなんですよ。決して殺し合いじゃないんです。どれだけ時間がかかろうとも必ず私の改善案を通して見せますよ」

あのマグマ迸る灼熱のグラウンドを――あるいはインタビュー終了後にデビルショート氏と交わした握手の硬さを――私は決して忘れることはないだろう。
デビルデモンズは1週間後にリーグ優勝を掛けた一戦を控えている。
我々はデビルデモンズが先攻を取ることと、後攻になること。どちらを願えばよいのだろうか？


（筆者注：本記事の公開から2日後に魔リーグのルール改正が発表され意図的なデッドボールの投球が禁止事項となった。
最終戦で先攻を奪取したデビルデモンズは、初回先頭打者殺人ライナーによる守備側全員殺人の記録を打ち立て、魔リーグ優勝を決定させた）

悪魔野球
（1.優勝決定後、誰もいなくなった後攻側 毒沼ナインのベンチ）