魔界で最も禍々しい川、禍川。そのほとりにあるあばら家には『魔骨院』の看板が掲げられている。
何らかの医療施設のようだが、それ以外の情報は一切無い。
朽ちかけた簾をくぐって中に入ると、老齢のデーモンが椅子に座って佇んでいた。
名前は本人すら忘れ去って久しいようで、地域住民からは『禍川の鬼先生』と呼ばれ親しまれているらしい。
今回我々が取材をお願いしたのはこの『鬼先生』。骨に関するスペシャリストだという情報を入手し、その御許へ急遽馳せ参じたのだった。

取材班が到着して間もなく、別の来客によって扉が開け放たれた。どうやら評判に間違いは無かったらしく、訪れたのは全身の骨が余すことなく粉砕され息も絶え絶えの魔骸骨。
魔骸骨は居合わせた我々の存在に気付くと歯を剥いて威嚇してきたが、二、三百発ほど殴ってやるとさめざめ泣いて事情を説明してくれた。
聞けば、ある日不注意により崖から火口に転落し、巨鴉に啄まれ、万力に挟まれてしまったことで全身壊滅的再起不能複雑粉砕骨折となり、その後は行く先々の魔病院で治療を断られ殴られているのだという。

彼は縋り付くように鬼先生へと訴えた。
「悔しくて悔しくて、胸が苦しいんです。先生、俺、まだ戦えますか?」
患者の悲痛な叫びと相対した鬼先生は、一言も話さずにただ頷いた。

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(全身壊滅的再起不能複雑粉砕骨折と診断されたため各地の魔病院で治療を断られ、暴行された魔骸骨。風が吹けば飛ぶ)

さっそく鬼先生は殆ど骨粉となった魔骸骨をかき集め、テーブルに乗せて治療を開始する。
まずは魔骸骨の全身に蛮挽肉を揉み込んで練り、そこへ更に香草、塩、胡椒などを混ぜて形成。その後少し休ませてから、油を敷いた鉄板に置いて表面からじっくり火を入れる。
中まで火が通ったらいったん引き上げ、次は滲み出た汁へデスワインを注ぎ、デス茸を絡めて煮詰めるように炒めソースを作る。
この二つが出来上がり、年季の入った陶皿に盛り付け、仕上げにデスクレソンを添える。すると、部屋中に猛烈な湯気が立ちこめる中で、ふっくらとした毒悪魔が再誕していた。

自分の身体に何が起きたのかを理解した魔骸骨、もとい毒悪魔は久方ぶりの五感を楽しみながら、鬼先生に頭を垂れた。
「憑き物が取れたような、生まれ変わったような、そんな気分です。本当にありがとう」
万感の思いがこもった礼と共に、固い握手で鬼先生の両腕を粉砕する毒悪魔。鬼先生は眉一つ動かさずにその肩を強く叩き、『行ってこい』と言うように魔骨院の出口を指差した。

毒悪魔は我々取材班に対しても地に頭をつけ礼を述べた。これから今まで世話になった全ての魔病院へお礼参りをするつもりだそうだ。
その出立を見届けた鬼先生は禍茶を飲んで一息つき、椅子に座って次の患者が来るのを待つ。

毒悪魔の退院から66666時間後。微動だにしない鬼先生に我々取材班は『どうして魔骨院を営むようになったのか』、『何が目的なのか』、『誰を殺したいのか』雨霰の如く問いかけた。すると彼はおもむろに窓の外を指し示す。その先にはいつも通り、禍孔雀をねじったような魔界空が渦巻いていた。
壊滅
(毒悪魔によって魔界全土で魔医が殺害されているらしい。怪我と飢餓と悔いの無いよう生きることを推奨する)